唸れ異方ブレード! 守れ徭シールド! 突然超越者のバトルアニメと化したハードコア・ファーストコンタクトポリティカルスリラーSFアニメ、正解するカド第9話であります。
色々とすんごい展開になりましたが、徭さんのぶっ飛ばし方よりも、これまで隠されてきたザシュニナの欲望、精神のあり方が明瞭になったのが、とても大きい気がします。
これまではカド・ワム・サンサというガジェットを人間がどう扱うかを話しのエンジンとして使ってきたわけですが、今回はナノミスハインはあくまで小道具、軸はザシュニナが何を望み、どういう態度で交渉に挑むかにあります。
そういう部分の種明かしがあって初めて、変革へのカウンタープロットとしての徭さんが立ち上がってくるのでしょう。

というわけで、今週も色々起きてるカドワールド。
とは言えキャラクターと場面は多くなく、カドの内部でザシュニナと真道さんが、カドの外側で徭さんと仲間たちが、それぞれワチャワチャしている状況でした。
これまでは異方技術の特権でカドの『中』と『外』は完全に隔てられていたわけですが、徭さんという対等存在、そして同じレベルまで70時間で駆け上がってきた品輪博士の助力により、その壁は崩れることとなります。
ここら辺、サンサ周りで『治外法権』という政治権力的な『壁』『内外の仕切り』が強調されていたのと、響き合うものを感じます。

カド内部という密室で真道さんと向かい合い、危険な真実を告げたザシュニナ。
今彼らが存在する宇宙は異方存在がパラメーターをいじった繭であり、その創造からして異方の欲求に答えることを期待されて生まれた、道具的存在であった。
神の傲慢というか、悪魔の愛情というか、ともかく異方存在も情報を希い、退屈を厭い、番いを求める存在であるということがよーく解りました。
真道さんをパートナーと見込んで『一緒に来ないか?』とプロポーズする(そして玉砕する)ザシュニナの姿は、第6話で真道さんのお母さんが呈していた疑問への『正解』とも言えるでしょう。

ザシュニナの恋は、人類のそれとは明らかに異質であり、同時に不思議と響き合うものがあります。
三時間前の真道さんをセーブし、ロードしてやり直す乙女ゲー体質はマジどうなのって感じですが、それは全能であるがゆえの選択肢であり、妙に人間くさいものでもあります。
『真道さんにドン引きされたまま顔合わせるのしんどいから、んじゃあリセットしちゃおう!』という発想は、幼いというか邪悪というか、そういう人間的感覚に当てはめるものではないというか、わからないけど分かってしまう不思議な引力がありました。

パンを複製するように人間を複製できて、それが『真実』の真道さんと寸分違いがないのだとしたら、三時間目のコピーと三時間前の真道さんを分けるものはなんなのか。
そこに価値を見出すのが徭さんであり、見出さないのがザシュニナ、ということなのでしょう。
視聴者の判断は様々に別れると思いますが、ザシュニナの行動にはロジカルな柱が確かにあるけども、真道さんの意志を確認しないのは傲慢だし、くり返し不可能な存在としての人間を軽んじているとも感じました。
ナノミスハインで時間も空間も書き換えられてしまうなら、そこら辺の倫理観や価値観は根本から変わってしまうのでしょうが。

異方に後押しされ加速された人間は、サンサやナノミスハインを使いこなす中で、今回のザシュにナのような価値観を当然視していくのでしょうか。
徭さんという存在がいる以上、あの行動はザシュニナ個人のものであり、異方存在全てが加速を信奉する価値観で動いているわけではありません。
それと同じように多様性が担保され、旧式の人類的価値と異方的価値が共存する世界もありえますし、物理(を超えた領域での圧倒)的力にまさる異方人類が価値観を塗りつぶす方向も、否定出来ないと思います。

どちらにしても、同朋を求めるザシュニナ、その選択を是とした人類によって生まれた加速は、とどまるところを知らないでしょう。
睡眠を駆逐し慣性を征服しエネルギーを蹂躙する成果を手にしてしまった人類は、早々簡単には後戻りできないと思います。
ザシュニナと徭さんの対決が来週、どういう形で終わるにしても、物語はもはやカドの内側では完結しません。
外側に漏れ出てしまった異方技術、それが変革する人類の定義と有り様に、人類がどう向かい合うか。
そこまでちゃんと描いてくれると、とても面白くなる気がします。


徭さんの変身("ツインエンジェルBREAK"といい、"サムライフラメンコ"といい、M・A・Oさんは変身ヒロインに縁があるなぁ。何しろご本人がゴーカイジャーだし)も衝撃的でしたが、今回はザシュニナが『交渉』を軽んじたのがショックでした。
自分だけの時間に耽溺し、真道さんと歩を同じくすることを拒絶する態度は、真道さんと徭さんが前回共通の価値と認めた『相互理解』に背中を向ける行為です。
酩酊する化学的脳を持つかわからない(多分持ってない)ザシュニナと、それでも酒を酌み交わそうとした真道さんとの時間共有を、ザシュニナは異界の腕で時間を弄ることでもてあそんだことになります。

ここで『やっぱりアイツはエイリアンだ! 話なんて通用しないんだ!』と交渉を断絶してしまうのも一つの道なんでしょうが、タフ・ネゴシエーターを名乗るのであれば、ここで粘り腰を見せて欲しい所です。
わざわざ37乗の高次元から人間の側に降りてきたからには、降りてくるだけの情熱が(その温度は人間の理解を超えたとしても)あるわけで、そこを足場にもう一度『相互理解』を作っていくのが、今後の真道さんの交渉になるんじゃないかなぁ、と思います。
まぁ真道さん、私情に流されずに広範にモノを見れる人なんで、70時間放置されて異方ブレードでぶっ殺されかかった程度で、チャンネルを斬ることはしないと思うけど。
……いや無理かもしんね~わ。

さておき、これまで印象的に使われてきた『正解』するべき対象が、今回ザシュニナの内面が解ったことで異方サイドに転移したのは、なかなか面白い所です。
どうすれば、自分たちと同等の輩を生み出し、交流し、同じ地平に引き上げることが出来るのか。
カドやワム、サンサやナノミスハインという異方のガジェットを差し出し、『今後人類がどうなっていくのか』という『問い』を発していたザシュニナは、その実孤独と退屈を癒やす『正解』を強く求めていることが解りました。
それはつまり、異方の交渉官であった真道さんが、ザシュニナの『問い』に答える代表になることも示しています。
なにしろ、ザシュニナが恋してしまったのは他ならぬ真道さんなわけで。

真道さんがザシュニナに投げかける『答え』は同時に『問い』でもあり、『交渉』にもなるでしょう。
あまりにも異質な、ワムやサンサのように善でも悪でもなくただ異質で圧倒的な存在としてのザシュニナを相手に、どういう言葉が説得力を持つのか。
『相互理解』の足場足り得るかは現状見えませんし、だからこそ今後の展開が楽しみにもなります。
全ての軛から解き放たれた一個人・真道幸路朗として答えを探すことを期待した、犬束総理好みの流れになってきてる感じか。


そしてもう一人の交渉官、徭沙羅花はポンコツヒロインとかを超越した、凄まじい時空までぶっ飛びました。
いやー、まさか『くりT』が異方の好みを表す伏線だったとはなぁ……。
それはネタとしても、異方の加速度に苦言を呈する存在が、人類の速度にこの繭のパラメーターを設定した管理者だというのは、結構納得の行く流れです。

前回徭さんが行った交渉は、儚い営みを繰り返す人間が言わせたのか、その宿命から遠く離れつつ愛おしむ異方存在が言わせたのか。
この区分は結構大事だと思いますが、同時にその両方でもあるんだろうな、という気はしています。
彼女の名前『沙羅花』とは、儚い人の営みを表す『沙羅双樹の花の色』に通じる響きを持っています。
咲いては散ってしまう命の繰り返しの中で、偶然と奇跡を折り重ねながら進んでいく人間の速度を、徭さんは愛しているのだと思います。

その足場が人間にあるにせよ、異方存在にあるにせよ、ザシュニナとは違う価値観を持った異方存在が出てきたのはなかなか面白い。
どっちが変わり者でどっちが主流なのかは未だ分かりませんが、異方存在にも人間同様の多様性があり、断絶があり、つまり交渉の余地と必要が有ることが分かるからです。
違うからこそ語り合い、理解し合い、妥協点を見つける必要があるのは、人間も異方存在も同じなのだと、ザシュニナと徭さんの対峙は示しています。(武力衝突もまた、交渉の一形態ではあるでしょう)

徭さんの乱入が、ザシュニナが交渉を拒絶するために玩弄した70時間でなされているのは、非常に面白いところです。
品輪博士が理論を現実化するためには3日=72時間必要だったわけで、それは人間が自然に歩んでいる時間。
異方の腕で特権的にパラメーターを弄ったことが、自分の目的を邪魔する障害を呼び込むのは、なかなかに皮肉な結果です。
そこら辺の時系列がどうなってるかを、来週まとめなおしてくれると混乱がなくて良いなぁ。


かくして、交渉官要素は真道さんに取られ、世論は革新の方向にグイグイと進み、内心『何でアンタ意味深にOPラストでくるくる回ってるの? 可愛いマスコットじゃないの?』と思ってた徭さんが、一気に存在感を増してきました。
メタ読み的にも作中描写的にも、ザシュニナのヒロイン街道大暴走に待ったをかけるのは徭さんしかいないし、そこら辺花森との会話の中で補強してんのは目ざといなぁと、思う。
唯一残った人間代表たる夏目さんが『人間相手じゃ真道との恋愛無理!』と白旗上げたことで、ザシュニナと徭さんの一騎打ちの舞台が整ったのは、残酷だなぁと思う。

異方存在が紡ぎあげた多数の繭から生まれた、情報の金糸を紡ぐ天蚕。
その中の生え抜きたる真道さんを軸に、革新と保守、2つの価値観を持った二人の異方存在が睨み合う構図が描かれました。
異方の腕を弄び、交渉を拒絶したザシュニナを前に、二人の交渉官はどう立ち回るのか。
カドの内部で展開する交渉と、外部で加速していく世界の変容は、どのようなシンクロを見せるのか。
大きくコーナーを曲がるどころか、物語に羽が生えて宇宙に飛び出した感もあるこのアニメ。
来週が非常に楽しみです。